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ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ侵略に加担してきた民間軍事会社「ワグネル」トップ、プリゴジン氏による反乱に翻弄された。
プリゴジン氏は、険悪な関係にあった露軍がワグネルを攻撃したと非難した。ワグネルの部隊にウクライナに隣接するロストフ州にある露軍南部軍管区司令部を占拠させた。同時に「正義の行進」と称して部隊を首都モスクワへ進軍させ、露軍との間で戦闘となった。
明らかな反乱だ。プーチン氏は緊急演説で「裏切りと反逆」だとして、鎮圧する意向を示した。
だが、翌日にはプリゴジン氏が翻意し、ベラルーシへ出国することになった。露大統領府は罪を問わないと表明した。
反乱は一応収束したようにみえるが、プーチン政権は、混乱と弱体化を世界中にさらす羽目に陥った。国際社会は反転攻勢を進めるウクライナへの支援を強め、侵略者ロシアを敗北に追い込まなければならない。
注目すべきは、ロシアの冬季攻勢の主軸となったワグネルを率いるプリゴジン氏が「ウクライナの非軍事化と非ナチス化に戦争は必要なかった」と明言し、プーチン氏が侵攻の口実とした「大義」を真っ向から否定した点だ。
プーチン氏は自らの偽りの宣伝を率直に認め、ウクライナから直ちに全面撤兵すべきである。
対ウクライナ戦の作戦指導にあたる軍管区司令部が反乱部隊に占拠され、首都モスクワが脅かされた。プーチン政権が同盟国ベラルーシに移るプリゴジン氏の安全を保障し続けるかは分からないが、当座は事実上の亡命を認め事態収拾を図るしかなかった。プーチン氏と政権、軍の威信が大きな打撃を受けたことは間違いない。
ロシアにはワグネルの他にも30以上の民間軍事会社が乱立している。露軍にも不満がくすぶっている。ウクライナ側から「ロシア義勇軍団」などによるロシア本土への浸透攻撃も始まっている。プーチン体制は足元を揺さぶられているということだ。その上、「大義なき侵略」との認識が国内で広がれば、第2の反乱やクーデターの可能性も排除できない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「(ロシアで)隠し切れない混乱が起きている」「悪の道を選ぶ者は自滅する」と指摘した。まさにその通りだ。
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2023年6月26日付産経新聞【主張】を転載しています